英語教育を早期に始める理由は? 早期教育への反対意見とそれでも早く始めるべき理由を解説

英語 幼児

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 しかし英語教育の事を調べていると、英語教育の熱が高まるのと同じくらい、早期から英語を教える事に否定的な考え方も多く見られました。そこで早期の英語教育に対するデメリットを一度まとめ、改めて自分たちのスタンスを固める事にしました。

まずは母語をしっかり習得すべきだという考え方

 英語教育の早期化に慎重な立場を一言で表すと「まずは母語をしっかり習得すべき」だというものでしょう。

 この考え方を理解するために知っておくといいのが「セミリンガル」という言葉でしょう。

セミリンガルを理解するにはCALPとBICSを知るといい

 セミリンガルという問題を議論する時に使われるのがCALPとBICSという問題です。

CALP:認知能力

BICS:日常的な会話能力

 認知能力は大雑把に言えば「難しい事を理解する能力」です。いくつかの言語を話せる人でも、難しい事を理解しようとする時は一番得意な言語である母語を使います。だから認知能力=母語の能力で、5年10年とかけて育まれていくものです。

 一方で日常的な会話ではそこまで難しい事を話しません。どちらかと言えばその言語を話す事や聞く事への慣れが必要です。慣れるだけであれば、環境さえあれば認知能力を上げる時ほど長い時間は必要ありません。日本人が英語圏に居続ければ、長くて2年程度で日常会話はできるようになると言います。

 認知能力が十分育つ前に、別の言語を使う環境に移住すると、認知能力の成長が一旦止まってしまします。母語を使わなくなるからです。第二言語での日常会話の能力はしばらくすると伸びてくるのですが、そこから第二言語の能力が母語に追いつき、難しい事を理解できるようになるまでに時間がかかります。

 そのため複数の言語を喋れますが、思考力や理解力の伸びが遅れてしまう。こういう状態がセミリンガルと呼ばれているようです。

避けるべきは「セミリンガル」。間違いだらけの語学教育

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 日本にいると海外に行く機会や、他の言語を耳にする機会が少ないです。だから「まず母語をちゃんと学習する」というのは当たり前に感じますが、そうではない環境に置かれる人も世界的にはたくさんいます。そうした人たちの認知能力が伸びにくいという問題が「セミリンガル」という言葉で表され、早期の英語教育に懸念を示している人も、大きく言えば日本人のセミリンガル化を懸念しているわけです。

セミリンガルというのは場合によって差別的なニュアンスを持つ

 注意しなければならないのは、セミリンガルというのが置かれている立場によって差別的なニュアンスを持つという事です。

 差別というのは、本人にはどうにもできない事で相手を攻撃する時に使われる言葉です。性別や肌の色、出身などを理由に相手を攻撃する事は差別だと言えます。

 そしてセミリンガルと呼ばれる状態になるのは、しばしば移住が理由になります。母語の認知能力が十分身につく前に、別の言語を使う環境へ移動する事で起こりやすい問題だからです。

 子供にとって移住というのは自分でどうにかできる問題ではありません。また違うバックグラウンドを持つ子は、子供同士の関係においてしばしば攻撃や排斥の対象になります。だから大人が「セミリンガル」という言葉を積極的に使う事で、セミリンガルという言葉が差別に使われる危険性がある事を認識しなければなりません。

「セミリンガル」という差別用語 | バイリンガル教育の研究機関【バイリンガルサイエンス研究所】

「セミリンガルという差別用語」の記事ページです。セミリンガルという用語は差別的な意味を含むため、通常使われるべきでない言葉です。気軽に使うことは避けましょう。効果的な英語学習、バイリンガル子育て方法を国内外の研究、独自研究から明らかにしていきます。早期英語、バイリンガル教育アカデミア、バイリンガルサイエンス研究所です。

 最近では「ダブルリミテッド」という言い方をするようになったようですが、本質的な言葉の意味は変わっていません。この言葉を使うのが適切ではない場面がある事は先に断っておきます。

日本ではセミリンガルという問題が非常に起きにくい

 その上で日本において、外国で生活する必要にかられる事はほとんどありません。日本では今の所戦争もしばらく起きていませんし、国内でもある程度経済が回っているからです。

 第二言語を話す必要がないので、ここまで説明した事情で認知能力が不足する事は基本的にありません。第二言語を学ぶ人は移住せざるを得ない人ではなく、より上のキャリアを目指している場合が多いでしょう。

 また英語教育に成功している国が、必ずしも「難しい事を理解する能力」に劣っているわけではありません。30歳未満の8割がバイリンガルと言われるシンガポールは国際学力テストの上位にいつも入りますし、大学生の7割が英語を話せる中国は科学論文数で世界1位になりました。

シンガポールまとめ

シンガポールの言葉についてまとめます。

「シンガポール人は英語話せそう」というイメージは日本人に定着していると思いますが、

その実情は意外と知られていないと思います。

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 それにも関わらず「まずは母国語をしっかりと」という主張をする理由はどこにあるのでしょうか。

英語教育の早期化が懸念される3つの背景

 英語教育の早期化に反対する理由は大きく3つにまとめられると考えられます。

日本人が英語の習得をするためのコストが高すぎるから

 日本語と英語はかなり特徴の異なる言語で、習得には他の国の人と比べて相当なコストがかかります。

 小中学校の年間の授業時間は1000時間に満たない程度です。小中高の12年間で授業のために取れる時間は概ね12,000時間程度だと類推できます。

 一方で英語習得のためには3,000時間程度の学習が必要だとされています。数値の根拠やニュアンスについては下記のサイトに説明があり、国務省職員というエリートが半分の時間を少人数制の授業、半分の時間を現地で勉強している前提なので、日本での大人数での授業で英語を身につけるためには3,000時間は最低限だと言えるでしょう。

英語習得のための学習時間=3,000時間【根拠は?】

英語習得のために必要な学習時間は3,000時間。この数字はFSIによるデータが根拠だと考えられます。アメリカ国務省の機関FSIによる「Language Learning Difficulty for English Speakers」にその数字が記載されています。

 本格的に学校教育で英語を習得させようとすれば、全授業の25%は英語に割かなければならない事になります。それだけのコストを払っても、日常的に英語を使わない環境で英語を話せるようになるかどうかはかなり疑問な部分でしょう。そして当然、他の教科の授業時間は大きく減らさなければならない事になります。

 元々の意味のセミリンガルとはだいぶニュアンスが異なりますが、英語教育に力を入れすぎる事で他の大切な力を伸ばせなくなるという懸念の由来の一つはここです。

BICSの習得は後からでも間に合うから

 前述の通り、英語圏に2年程度いればある程度日常会話はこなせるようになります。一方で認知能力は長い時間をかけて伸ばさなければなりません。だから先に取り組むべきは認知能力の方だというのは一つの考え方です。

 この考え方を主張するのは学者の方が多い印象です。学者であればコミュニケーション能力よりも研究内容が重視されやすいですし、学者同士で議論をする前には当然相手の論文を読みます。英語そのものの能力が多少低くても、コミュニケーションのためにお互いが相手の主張を事前に理解していますし、議論のために相手の話を理解しようとお互いが積極的な状態で話ができます。

 いわばコミュニケーション面での不利を、研究内容で補えるわけです。それだけの研究や仕事ができるだけの認知能力を付けるのが大切だというのは、一つの有効な戦略だと言えます。

日本という国の衰退に繋がるから

 本来第二言語を必要とするのは、自国に力がない場合が多かったようです。植民地として占領されていた時に占領国の言葉を使うよう強制されたり、自国内に十分な仕事がなくて海外へ出ていくケースです。

 影響力のある国であれば、極端な話、国民が外国語を学ぶ必要はありません。わざわざそんな事をしなくても自国内で生活が成り立ちますし、外国の人も勝手に自国の言語を学んでくれるからです。実際に日本や中国、シンガポールの人は積極的に他国の言語である英語を学ぶ事に力を入れています。中国は自国民が英語を学び、国外へ行く事を避けるためか、小学校での英語試験を禁止しました。強い国であれば他国の言語を学ぶ必要性はかなり低下するのです。

 日本において英語教育が盛んになるというのは、国が弱っている事を意味します。そして国が弱っている時に本来取るべき作戦は、基本的には国を強くする事であって、優秀な日本人に外国で働いてもらう事ではないかもしれません。

 こうした日本という国の単位で考えた時にも、英語教育の早期化に反対する考え方はありえます。 

英語教育に早期から取り組むべき3つの理由

 しかしこれらの理由を踏まえても、なお英語教育には早期から取り組むべきだと思っています。

英語ができない事のリスクが相対的に上がっている

 日本人は英語習得に膨大なコストがかかる事は前述した通りです。英語の授業の開始を早めた程度では、まだ英語を話せるようにならない人も多いのではないかと思います。

 しかし授業時間が増える事は事実ですし、受験でもよりスピーキングやリスニングを重視するようになり、昔より実用的な英語を身に付けられる可能性は高くなっています。ネット社会の発達で海外との距離は大幅に縮まっていますし、日本の賃金も長い事大きくは上がっていません。英語を身に付ける人は相対的に増えるでしょう。逆に言えば、英語を身に付けないリスクは相対的に上がっています。

 すると取るべきスタンスは大きく二つに分かれます。英語は受験用の科目だと割り切って最小のコストで乗り切るか、早くからコストをかけて習得に踏み切るかです。そして3歳という年齢は、英語を捨てるには早すぎます。今のうちから取り組みを始めておく事で、学校の授業では足りないであろうコストを支払いきる事ができるかもしれません。

BICSの習得は最低限では足りないかもしれない

 認知能力を高め、驚くべき成果を出せば、コミュニケーション能力は後から身に付けられる。この考え方は魅力的に映りますが、一方でその考え方が通用する仕事は多くないと感じます。

 営業をしていれば、こちらが精魂込めて作った資料があっても、顧客が目を通してくれる事は非常にまれだと分かるでしょう。後輩を教育した事があれば、自分の作ったマニュアル通りに作業をしてくれる後輩がどれだけ貴重か。プログラマーであれば、成果物の仕様や開発の工数について理解してくれる発注者がどれ程いるか。多くの仕事において、問題になるのは素晴らしい研究や製品を作る事だけではありません。その成果に対して興味を持ってもらう。話を聞いてもらい、理解してもらう事の方が困難な場面は決して少なくありません。

 日常会話がなんとかできるというレベルには、比較的短い期間でたどり着けるかもしれません。しかし興味のない相手に話を聞いてもらうには、当然もっと高いレベルが求められます。日本でも、片言の日本語でこなせる仕事が少ない事は想像がつくでしょう。

 そしてコミュニケーションが上手い人の条件に、話す内容自体が含まれる事は少ないでしょう。聞き上手で話が面白く、こちらの気持ちや場の雰囲気をよく察してくれるといった、感覚的な要素が多くを占めるのではないでしょうか。これらの要素はもちろん非言語的な部分も含まれますが、話し方のトーンや言い回しなどの言語に対する感覚というものもまた不可欠だと考えられます。

 認知能力を軽視していいという話ではありません。認知能力だけでは足りないのです。そして英語に限らず「先天的」な感覚というのは幼少期に養われます。最低限の日常会話は後からでもできるようになるからと言って、幼少期の英語教育を軽視するのもまた難しいと言えるでしょう。

子供の可能性を狭めたくないから

 子供の可能性は無限だと言います。親が子供の可能性を潰してはいけないとも言います。

 しかし無限の可能性を全て潰さないというのは不可能でしょう。例えば多くのスポーツは、幼少期から取り組む事が有利に働きます。必須だという場合も多いです。ですが野球もサッカーも水泳もテニスも全てのスポーツをやらせる事はできません。全ての言語を教える事はできませんし、全ての才能を伸ばしてあげる事もできないでしょう。

 ただ、英語が得意だという事で守られる可能性は多いです。行ける国や就ける仕事、読める文章や進学できる大学。全てにおいて英語というのは大きな可能性を残してくれます。特に受験では、海外へ出る気のない人に対しても英語の能力が求められますし、これからは英語での会話能力が試験でも求められる傾向にあります。

 英語習得のための単純なコストは高くても、リターンを考えれば、コストパフォーマンスは決して悪くないと考えられます。

まとめ

 今回は英語の早期教育のデメリットを調べました。元々は子供をセミリンガルにしてしまう事を懸念していましたが、海外移住やインターナショナルスクールへの入学予定がない我が家では、この問題はそこまで懸念すべき問題ではないようでした。

 その上で日本人は英語習得のコストが高く、日本語で認知能力を高め、その後で最低限のコミュニケーション能力を身に付けるのが一つの成功パターンである事が分かりました。

 このパターンは有効な場合がある一方で、コミュニケーション能力が最低限で済む仕事は限られるのではないかという懸念を持ちました。子供はまだ小さく、今後の可能性をできるだけ狭めないようにするためには、早期教育で英語に対する感性を磨いてもらうのが望ましいでしょう。

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