公文先取り学習の弊害は? 先取り学習を過大評価せず正しくメリットを活かしましょう

公文 受験

  公文を小さい時から習わせていると、意外と今の学年より先の内容をどんどん学習していけるものです。小学生のうちから中学・高校の内容を子供が学習していると、親としても鼻が高くなるものです。

 しかし場合によっては子供がそれを鼻にかけ、学校の授業を軽視したり、同級生を下に見たりしてしまう事があります。これは当然望ましい事ではありませんし、学年が進むにつれて伸び悩む原因にもなります。

 今回は公文の先取り学習が進んでいるお子さんの正確な現在地と、子供と共有したい認識を説明します。

公文では基礎を高いレベルで身に付けられる

 まず前提となるのは、公文では基礎を高いレベルで身に付ける事ができるという事です。

 公文では基本となる読みと計算を徹底的に反復します。決まった時間内にほとんどの問題を正解できなければ次の内容へ進む事はできません。

 読みと計算というとレベルの低い話に聞こえるかもしれませんが、公文での読みと計算には古文漢文や微分積分のような内容も含みます。これらを理解するだけではなく、速く正確にできるというのが公文の特徴でしょう。

公文で先取り学習をできる子は優秀だが、天才とまでは言えない

 では公文で先取り学習をできている人はどの程度優秀な層なのでしょうか? 

 大雑把に言えば「まあまあできる人」というのが正しい認識です。

 公文では基礎を繰り返します。例題を見て、似たパターンの問題を解き続けるので、例題が理解できればそのうち先へ進めます。数年公文を続けていれば、3学年程度の先取りをできる子はそこそこいます。

 公文で先へ進めている理由は「例題とそのパターンを理解できる事」と「反復の量をこなせている事」です。これらができる子が優秀である事に間違いはありませんが、天才的というにはまだ物足りないと言えます。これは天才は公文をやっていないという意味ではなく、公文の先取り学習をしているだけで天才だというわけではないという意味です。

 しかし公文の先取りが進んでいる事が天才的だと勘違いしてしまう理由があります。

学習が先に進んでいる事と頭が良い事は違う

 誰だって小学生が微分積分の問題を解いていたら、きっとこの子は天才だって思いますよね。ただし学習の進み具合には広さと深さがあります。公文をやれば先の学年まで学習範囲の広さを獲得できますが、それぞれの分野を基本以上に深堀りする事はありません。

 そしてある程度のレベルを超えると、基礎が固まっているのは当たり前という世界があります。基礎に穴がある人はそのレベルにそもそもおらず、そこから先の「どこまで深く考えられるか」という部分が大事になってきます。

 その世界に足を踏み入れられるというのはすごい事なのは間違いありません。受験前に基礎がちゃんと固まる人の方が実際は少ないでしょう。しかしそれは一生懸命勉強を頑張ってきたという事であって、褒められるべきは才能ではなくその努力の方です。

小さいうちは勉強への熱意で差が付きやすい

 もう一つ誤解が生まれやすいのは、子供の学年がまだ低いタイミングです。

 先程上のレベルでは基礎が固まっていない人がいないと言いました。しかし小学校の低学年で、基礎を固める事へ情熱を傾けている人は極めて少数派です。天才的な頭の良さを持つお子さんでも、この時期はまだ勉強にそこまで力を注いでいなかったり、好きな事にしか興味がなかったりします。

 だから学年が早い時期であれば、公文で基礎を固めるだけで天才と言える位置にいる事ができます。しかし公文の先取りで固めた基礎というのは、いずれ誰もがその学年になれば習うものです。公文で先取りをしたというだけであれば、いずれ周りに追いつかれ、あるいは追い抜かれていくでしょう。そしてどんどん追い抜かれていくというのは、子供にとってかなりしんどい体験になります。

中学受験前に公文の小学校の範囲を終えても難関中学合格には直結しない

 こうした部分を勘違いしてしまった時、最も悪影響が出やすいのは中学受験です。

先取り学習は中学受験においてアドバンテージにならない

 中学や高校の範囲を先取りして学習しているというのは、中学受験においてほとんどメリットになりません。先取りしている範囲は試験の範囲外だからです。中学受験においては小学校の範囲をどれだけ深く学んでいるかという点や、中学受験独自の問題にどれだけ対応できるかという点がポイントになってくるわけです。

 そのため子供は中学受験と関係のない部分で自信を付けてしまった状態で塾へ入る事になります。上の学年で学ぶ範囲も基礎は抑えていますから、しばらくはアドバンテージがある分、相対的な順位も良くなります。しかし塾でその範囲を取り扱い、周りも同じように基礎を固めた段階で初めて実力不足へ気が付く事になってしまいます。本気になるタイミングが遅いというのは、受験において致命傷になるでしょう。

公文では扱わない学習範囲がある

 公文の英数国では、中学受験に必要な範囲を全て抑えられるわけではありません。英単語や英文法、漢字という所は公文ではそこまで覚えられませんし、数学に至っては図形問題を全く扱いません。

 恐らく公文は中学受験対策をしてもらおうと考えていません。公文は基礎がしっかりと身に付くのがメリットですが、扱っていない分野は当然身に付きません。中学受験という時点で切り取ってしまうと、公文では応用力も身に付かないし基本にも穴があるという状態になってしまいます。

公文では応用問題に必要な思考力やセンスは身に付かない

 中学受験では思考力やセンスが問われる場面が多いです。高校や大学の受験と比べ、基礎の範囲が狭いからです。

 公文の教材は習うより慣れろという傾向が強く、頭に汗をかいて一つの難問に取り組む事はありません。筋トレで運動神経は良くならないのと同じようなものです。 

公文が真価を発揮するのは大学受験

 ここまで見ると、公文のメリットが分からなくなると思います。それは中学受験を前提に話をしているからです。

 公文が真価を発揮するのは大学受験です。

 大学受験においては学習範囲が広く、中学や高校と比べて基礎を固める難易度が飛躍的に増します。そのため基礎がしっかり固まっていれば、東京一工や医学部を除けば十分狙えるレベルまでたどり着けます。基本的な問題がほとんどを占める一次試験で九割を取れれば、早慶でさえ一部の学部は二次試験を受ける必要もなく入学できた時代があったくらいです。

 基礎の比重が相対的に高まる分、思考力やセンスと言った部分が問われる大学も多くありません。

 また数学も高校過程の範囲は公文では全て扱います。さすがに英単語や英文法、漢字は公文だけでは足りませんが、それでも公文で学んだ事の及ぶ範囲はぐっと広がります。

公文で得た余裕をどう活かすか

 そして最も着目すべき事実は、大学受験における英数国の基礎の概ねを、公文では小中学校で終えられる可能性を秘めているという事です。

 出題範囲が広いという事は、学習量がボトルネックになりやすいという事です。受験勉強を本格的に始めてから、全科目の基礎を固めきるだけでも容易な事ではありません。しかし英数国は文系でも理系でも軽視する事が難しい科目ですし、伸びるまでに時間のかかりやすい科目でもあります。

 公文で最終教材を終える事ができれば、受験勉強が本格的に始まった時、英数国へ割かなくてはならないリソースを大幅に減らす事ができます。この空いたリソースで何をするのかという所が公文の先取り学習の勘所でしょう。

中途半端に公文を進めて調子に乗るのが一番良くない

 そうなると一番良くないのが、公文の先取り学習で調子に乗ってしまう事です。早い段階で基礎を固める事で、他の科目へ時間を使ったり、応用問題へ挑んだりできるのが公文のメリットです。せっかく早く基礎を固めたのに、その位置に満足して浮かれていては何の意味もありません。

 公文で学ぶのは他の人ができない事ではなくて、いずれみんなができるようになる事です。この事を正しく認識していれば、公文の先取り学習に親が浮かれてしまう事はなくなるはずです。むしろ空いた時間でどんな事をしてもらうべきかという所へ意識が向かうでしょう。あるいは年齢的に、どんな事をするのかは子供自身が決めるタイミングに来ているかもしれません。

子供に公文の効果を正しく伝えてあげるのは親の責任です

 公文の先取り学習にはここまでで説明をしたような様々な意味合いがあります。公文で学ぶのは基礎であり、先取り学習はそれ単体では周りが言う程のアドバンテージにならない場合があります。特に中学受験では公文で身に付けた力が役に立ちにくい一方で、大学受験においては習得した基礎が大きな意味を持ったりもします。

 しかし子供がその事を悟れるのはずっと先になってからでしょう。小学生くらいの年齢であれば、周囲よりはるかに先の範囲を学習する自分は天才だと考えるのが自然です。また周囲の人からチヤホヤされる場面も多いでしょう。公文で得た時間の余裕を慢心によって無駄にしてしまったり、本当に頭が良い人との差に気付いてショックを受ける場面もあるでしょう。

 勉強に限らず、小学生はまだ物の見方が広くありません。親がお金持ちなだけで自分も偉いと思ったり、本気を出さない事をかっこいいと思ったりするでしょう。やがて分別が付き、そうした考え方が偏っていると気付くタイミングは必ず来ます。しかしそれが大人になってからという人もいるでしょうし、気付くのが遅くなる程に人生への悪影響も大きくなります。

 だからこそ親が正しい認識を持ち、公文が持つ効果を子供に伝えてあげる必要があります。そうすれば公文の効果を実感できるタイミングというのが必ずどこかで訪れるでしょう。

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